明朝

全、きみに告ぐ

東の空は藍く、冬

吉祥寺から大森、終電の京浜東北線御徒町へ。蔵前まで歩く数十分の道のおともはあたりめとレモン炭酸。さっぱり東京っぽくなかったけれど 東京という街を思い出すとき あの日の春日通りは結構、記憶の手前のほうにある。

ひとつひとつ、なんて中学でそんな名前の問題集を買ったときから知ってるはずだった。できないって思い込んでしまうほどに生活を見失った私もどこかに住むあなたももうなんだっていいのにね。もうなんだっていい、なんだっていい、とリセットするための魔法を唱えるように呟くあなたに、私はできることがあるだろうか。ないかも。あなたのことを救うのはあなた自身のみである。それを支える他者の愛は感謝たっぷりに享受してよいし誇るべき存在だけれど、私たちはその誰かを失ったときに目の前を真っ暗にしてしまわないだろうか、とふと思う。もうなんだっていい、なんだっていい。なんだって、なんだっていいのかな。なんだって、よかったのかな。昔使っていたノートを見返すたびに、過去を生き抜いた はためく自分が眩しく目を伏せてしまう。ねえ、もう今を飲むのをやめませんか。それなしには生きてはいけませんか。それなしで生きる道もあるんじゃないかって、思えませんか。歩いていると道端にひまわりが見える。自分の背よりも高く咲くそれを一瞥して通り過ぎようとしたけれど、やっぱり振り返って写真を撮ることにする。だってカメラロールにひまわりの写真があるなんて、なんだかとてもいいなぁと思うから。歩いていると何処へだって行けるような気がしてくるね。赤羽の高架下を通って商店街、数十メートル歩いた先にある喫茶店、二階。注文はえっと、レモネードをお願いします。そうやって過ごすなんでもない夕方があったって、いいんじゃないかな。赤羽台団地の坂をのぼりながらエレカシの「桜の花、舞い上がる道を」を歌う。そうやって迎える夕暮れがあったって、いいんじゃないかな。片手にはあたりめとレモン炭酸。キリン秋味は美味しいけれど、明日にとっておこうか。明日の夜は秋味。これ、きまり。だから、だからなんだっていいから、明日までは生きていようよ。