明朝

全、きみに告ぐ

線を目前に踊る

プリーズ、ステイ、ビハインド、ザ、イエローライン。

よりそいホットラインはいつ何時もつながりません。誰のためにこの電話線は開かれているのでしょうか。生をやめたい人にはPCOPに取り組む余裕すらないということを身を以て知る。声を聞きたいと思う特定の誰かがいるときに限って、その人との電話線は切れている。もうこれがどの罰かすら分からないくらいが今だった。青春を歌う彼女らの「行きたくないよ 行きたくないよ」という歌詞は反出生主義モードに入っているときに聴くと「生きたくないよ 生きたくないよ」になるのかもしれない。朝方手をとってくれた詩人の声はぬめりを持っていて、近づきがたかった。いつだって直感だけを信じたい。遠い、すべてが遠い。そうあるとき、抗おうにも近くにあるものに価値を感じ得なくなる。遠くにあるから光ってみえるならずっと遠くにあればいい。しばらくずっとそうやってきた。遠くにあるから光ってみえる。型抜きしたみたいな幸せはきっと上手に振る舞えないけれど、ただいつかクリームパンを半分こしたい。蚊がたくさんいる公園で一緒にパンを分け合って食べませんか。want toばかりに目を向けている夏はとっくにもう手遅れだった。デニーズでパフェを食べようと思えど高知にデニーズはなく、brew booksでクラフトビールを飲みながら本を読んだあとにカオソイを食べに歩いてエイミーズベーカリーでブルーチーズマフィンを買って帰るデートをしようと思えどここは西荻窪ではなかった。もはや平和ではない。たとえば僕が売れたら。あり得たかもしれない未来のことを思いながら短歌を詠むくらいしか娯楽がない。現実を生きるにはあまりに蒸し暑く、息苦しい。梅雨は明けれども湿度は依然として高い数値を保つ。遠い、すべてが遠い。希望はありますか。好きになったお笑いコンビが賞レースで活躍する未来とか、好きになったYouTuberの登録者数が5万人になる未来とか、誰か遠い他者の喜んでいる姿が見られる未来には希望があるかもしれない。友人がいま目指している業界でめちゃくちゃ売れるとか、あなたの仕事がしんどくなくなるとか、君がいい仕事を見つけられたりとか、好きな人とうまくいったりとか、そういう未来には希望があると思う。希望があるほうの未来を見つめていると、そうでない出来事が起きたとき身体は凍てつく。誰かの幸せが続けばいいなぁ。深夜にお腹が空いて焼いたトーストがいい焼き加減だったこととか、ふと観た映画がいい作品だったこととか、散歩をしていて見つけた捨てられ猫が誰かの手によって拾われたこととか、そういう小さかったり大きかったりする誰かの幸せが続けばいい。誰かが行って、そしてまた誰かが帰ってくる。いってらっしゃいをしたら、ただいまがある。いつになってもいいから、どうか私たちにただいまを聞かせてください。