明朝

全、きみに告ぐ

2022/10/15 3:56

ああ、と思う。誰にだって言えなければ言いたくもなれない色々に。希望も絶望も正常に異常に。黒い服と黒いマスクと黒い縁の眼鏡を纏って喋り続けていた今晩のあの人は一体誰ですか?誰でもない、けれどそんなはずはない誰かとの帰り道は寂しい。いつも煌々としたあのうどん屋と、その隣にあるスナックが賑やかなことに気づく余裕。寂しさと呼べる隙間の所在。

誰にも誠実になれない。自分を守る盾が他者へ振りかざす鈍器になってはいけないと、そう思って生きてきたはずだった。実現できない。白湯を飲んでも何も解決しない。文章を書いているときに流れる涙は、いかに誰にも、誰とも何も話していないかを知らしめる。傷つけるように人へ人をする。やめられない。やめないとも思う。わからない。灯。

眠れなさは肌寒さだったのだと、もこもこカーディガンを買い求めてから気がつく。羽織るだけで眠気が訪れた。そばにいるだけで眠気が訪れること、そうした人との時間。それが愛だと聞いている。

働く君が教えてくれた発酵バターケーキタルトを買いに夜道を走らせる。150円で510kcalを実現するために考えつく限り唯一の方法。胃で尾を引くようにへばりつく乳酪。ほろほろと。大森靖子も好きなスパイシーチキンと、フェア中らしい焼き芋フラッペ。いつかラインソックスをおそろいで履こうね。誰かとの約束ばかりが増えていく。果たせないことや果たさないことでもって生まれる関係性の輪郭。その光。ねえ、柴田聡子の「雑感」聴いた?

あいちトリエンナーレ2019の円頓寺商店街でみた、交通事故死の被害者と加害者をテーマにつくられた作品のことをそのたびに思い出す。車を自分が運転できるなんて到底思えない。自分が誰かの車に乗せてもらうとき、雨の日に市バスを利用してバイト先へ行くとき、東京行きや帰省のために夜行バスへ乗るとき、いつも死の覚悟をしている。大きく、硬く、速い。到底思えない。