明朝

全、きみに告ぐ

いつか聴いたような曲が聞こえる、もう眠り方を忘れた。分かったから季節を歌わないで、と縋ってみるのは水路の隅に咲く濡れた花か草だけれど、するりと抜けていったそれを追うことはもうしない。それより久保田のミルクアイスキャンデーが食べたい。さりとて、こたつはつけると暑いし消すと寒いのは定説である。水を飲もうと冷蔵庫を開けると一匹の黒い猫がこちらを見つめていた。夏果てる昼下がりはいつかのティーンエイジに忘れてきたらしく、手の中に残っているのは和菓子柄の手ぬぐい一枚だった。にじゆら、ゆらゆら。ルミエスト新宿で買ったワイヤレスイヤホンの充電は切れる気配の微塵もない。コンビニの駐車場で見かけた猫は小さく、栗のような色をしていた。東西南北も分からないままに数分歩いていると、選書の素晴らしい本屋があった。入り口のイルミネーションがかわいくて思わず写真を撮る。何も歌にしたくないのに歌にしてしまうのはなぜだろうね、しょうがないねもう。いまどの方角へ進んでいるかはわからないのに帰る家の方向は分かる。街の様相が分かる。しょうがないからコンビニでペットボトルの水を買って帰ることにする。プライベートブランドの水を手に取ろうとして、その下の段にあるいろはすが目に入る。緑色のラベルがどこか懐かしかった。